ハート島熱風食堂
ABOUTSTORYOTHERLINKSHOME

STORY 01 春の嵐

STORY
01.春の嵐
02.島の子
03.あたらしい夏
04.黒潮の便り
05.明日定食
06.おじいの海
07.元気そば
08.満天の星
09.天使の休日
10.待っている人
11.涙の浜辺
12.本日営業日和
13.いのちのうた
14.店主の器
15.名もなき花で
16.笑顔農園
17.夢の一滴
18.見えない力
19.夏はお熱く
20.恋する珊瑚礁
21.島の魔法
22.ウミガメ物語
23.五風十雨
24.心の花
終 章
全話一括表示


ハート島熱風食堂


第1話 春の嵐

あなたはご存知だろうか。
いい風が吹く南の島に、一風かわった食堂がある。
珊瑚の海をのぞむ素朴な浜辺に、雑然とならんだ客席。 飾り気のない店だけど、いつもにぎやかな笑い声がきこえる。
厨房では、店の主人であるオッチャンが、汗だくで鍋をふる。
ちいさな看板娘がお客の注文をとり、冷たい麦茶をついでまわる。 その笑顔が見たくて、お客はこぞって少女を呼ぶ。
「おーい、マリー」
「はーい、ただいま」
ここはハート島、熱風食堂。太陽と潮風が自慢の店。
少女にとって、世界でいちばん好きな場所だ。

食堂の浜につづく砂利道を、少女は飛び跳ねながらはしる。 彼女の名はマリー。島の少女は、もうすぐ十三歳になる。
食堂を手伝うようになって半年。 マリーは島から役割をもらったような気がしている。 もともと誰かの喜ぶ顔を見るのが何より好きなオッチャンがひらいた店だから、 マリーの仕事もただひとつ。 マリーが冷たい麦茶をつげば、お客はみんな笑顔になる。それが最高に気持ちいい。
この島で、マリーは祖父に育てられた。 両親の行方はわからないが、淋しいと思ったことはない。 いつもおじいと一緒だし、この島が大好きだからだ。
島の形からハート島と呼ばれるこの島は、人口約二百人。 そのほとんどは牛で生計を立てており、いちめん牧場がひろがっている。 周りは美しい珊瑚礁。青い海と自然が自慢。 船は一日に三便。食堂一軒、商店一軒、宿四軒。 小中学校と郵便局はあるが、病院も信号機もコンビニもない。
そんな島だから、特別なことは何ひとつ起こらない。 それでも話題にことかかない。泣いたり笑ったり、毎日とてもおもしろい。

小学校の卒業式が間近に迫ったある日、熱風食堂の浜で、手作りの表彰式が行われた。 集まった島の人々を代表し、青年団長のシゲさん(四十六歳、独身)が、表彰状を読み上げる。
「笑顔が最高で賞。六年一組、仲本マリーどの。あなたの笑顔はこの島の宝です。 中学生になっても、元気でがんばってください。熱風食堂常連客一同」
マリーが表彰状を受け取ると、浜辺に拍手がおこった。 得意の指笛をならすショウちゃん。タオルの旗をふりまわすトキおばぁ。 島の小さな人気者、双子の海太と風太も大はしゃぎ。 涙もろいオッチャンは手ぬぐいで目頭をおさえ、一同を爆笑させた。
そのあと島酒が出て、お祝い大宴会のはじまり。なにかといえば乾杯。 この島の人はとかく飲むのが好きだ。
そんな大人たちに目を細めながら、主役のはずだったマリーは、 食堂の一員として忙しくはしりまわるのだった。

夕方、ひとり浜におりたマリーは、 もらった表彰状を空にかざして、ゆっくりと目を閉じた。
マリーには不思議な力があった。 心の中に花を思い浮かべると、風が語りかけてくれる。 そして大切なことをマリーにおしえてくれる。 マリーはその力を「心の花(ククルヌパナ)」と呼んでいる。
「今日はありがとう、いつまもでもこんな日がつづきますように」
すべては変わりつづける。風がこたえた。 けれど、これからはもっと楽しくなるだろう。 すべてを受け止めて、自分の心に正直に歩いていけば、なにもおそれることはない。 海はそういってマリーに希望をあたえてくれた。
彼女の行く手に良い風の吹かんことを。
それは、島のみんなの願いでもあった。

ところが、卒業式の日、島を季節はずれの嵐が襲った。
木々を揺らし荒れ狂う風が、叩きつける雨に拍車をかける。 心配のあまり食堂の浜へ走ったマリーは、滅茶苦茶になった客席に愕然とする。 強風にあおられる厨房を小さな体で懸命にささえるマリーだったが、 無念にも食堂は屋根ごと吹き飛ばされてしまった。
暴風の中、傘もささずに駆けつけたオッチャンは、 とりみだし泣き叫ぶマリーを「表彰状を忘れたか」と一喝する。 そして「強いやつはつらいときほど笑うもんだ」と、ずぶ濡れのマリーを抱きしめた。

泣きながら家に帰ったマリー。 たまらずおじいの腕にしがみつくと、おじいはおだやかにこたえた。
「こわれたものはまたつくればいいさ。 今度マリーはいったいどんな食堂にするんだろうと考えたら、 おじいはとっても楽しいよ」
おじいは今はのんびり畑をたがやしているが、 かつて腕利きの海人で、みんなから「風おじい」と呼ばれている。 海の彼方から吹いてくる風のように、いつもしぜんで、懐が深い。
「大丈夫、マリーはおじいの孫だからね、負けたりしないさ」
「うん、負けるもんか・・・」
終らない嵐はない。マリーは明日からの楽しい再建作業を想像して、 時が過ぎるのを待った。

ところが、事件は起こった。 海人見習いの義弘君の船がまだ帰ってこないことを知った風おじいは、 ふきすさぶ嵐の中、家をとびだしてゆく。
あれくるう港、おじいは周囲が止めるのもきかず、小さな船に乗りこんだ。 大きく揺れる船体につのる不安。
「約束だよ、おじい、必ず帰ってきて」
「心配ないよ、心に花を持っているからね、おじいは大丈夫」
笑ってマリーの頭をなでると、おじいは嵐の海に出ていった。

風雨の中、マリーは心から祈った。
けれど、風おじいは、二度とかえってこなかった。



波はくるくる彼方から
風が幸よぶこの島は
ハートのかたちだハート島
心の花を咲かせましょう





ハート島人物録
登場人物紹介はこちら ≫
ABOUTSTORYOTHERLINKSHOME
Copyright (C) by SumaoBell All Rights Reserved.