ハート島熱風食堂
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STORY 15 名もなき花で

STORY
01.春の嵐
02.島の子
03.あたらしい夏
04.黒潮の便り
05.明日定食
06.おじいの海
07.元気そば
08.満天の星
09.天使の休日
10.待っている人
11.涙の浜辺
12.本日営業日和
13.いのちのうた
14.店主の器
15.名もなき花で
16.笑顔農園
17.夢の一滴
18.見えない力
19.夏はお熱く
20.恋する珊瑚礁
21.島の魔法
22.ウミガメ物語
23.五風十雨
24.心の花
終 章
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ハート島熱風食堂


第15話 名もなき花で

マリーの庭に初めて花が咲いた。
荒れ放題だったオッチャンの家は、同居人を得て生まれ変わった。 マリーはハツミに負けじとすこしづつ庭の草を除り土をならした。 すると石垣の脇から芽が出て、ひとりでに咲いた。
トキおばぁの家にたくさん咲いている花で、おそらく勝手に種がとんできたのだろう。 それでも一人前の庭になったような気がして、マリーはうれしい。 大はしゃぎの天使がその花を小型カメラで撮る。名前さえ知らないけれど、大切な花だ。

お隣のトキおばぁの家は、にわかに活気づいていた。 トキおばぁが家族祭りと呼んでいるそれは、いわばお盆の行事。 長男の命日にあわせて、先祖代々の御霊をまとめて呼んで接待する。 風おじいが子供の頃からすでにオバアだったというから、 トキおばぁがいったい何歳なのかわからないのだが、 七人の息子はいずれも他界し、孫も島外に散らばっているため、 おばぁは毎年ひとりで家族祭りをとりおこなってきた。
ひとりになったトキおばぁは、この島の母となり聖地をまもってきた。 北国から嫁いてきたヨッちゃんの相談相手となり、 徳三おじいの家で生まれたオッチャンをとりあげ、 毎日空に洗濯物をかかげ、暮らしの知恵とあやしい予言を島にもたらす。

オッチャンは買出しの際に上等の物干し竿を仕入れ、 婦人会からは洗濯石鹸(ただし固形)がトキおばぁに贈られた。
マリーも日頃の感謝をかたちにしたいと思い、 保育所のヨッちゃんにトキおばぁの絵本をつくろうと提案するが断られる。 そんなことをしたら「おばぁがいなくなるような気がするから」。
困ったマリーはククルヌパナの力で風に相談するが、 案の定、マリーが元気でいればそれでいいと微笑むばかり。

そんな頃、ショウちゃんの牧場で大量の洗濯物が出たことを知ったマリーは、 ハツミ号でそれをひきとり、洗濯しようとトキおばぁにもちかける。 折りしも家族祭り当日、トキおばぁは困った顔をしながらも、 庭に出て、マリーらと一緒に洗濯をはじめた。
上機嫌のマリーはこの庭に咲く花の名をたずねるが、 当のトキおばぁは知らないと笑う。
「マリー、咲くものはみんなただの花さ」
天使は公民館の植物図鑑で花の名を調べて駆けつけたが、 そのやりとりを見て、黙って洗濯に加わる。 「筋が悪い」とトキおばぁに言われても、今日ばかりはいい気分。 ハツミがつくるしゃぼん玉は、青い空に吸い込まれ、勢いよくはじけた。

大量の洗濯物が新しい物干しになびいた頃、 百個の餅を持ってオッチャンがやってきた。
再開された家族祭りに、今年は五人の生きた客あり。 花が揺れる庭先には、きっとたくさんの元気な幽霊が遊んでいることだろう。 誰ひとり名前は知らないけれど、みんな楽しげだ。
マリーはそのことを誰よりも知っていた。



朝な夕なに海の風
かわす情けのあたたかく
ハートのかたちだハート島
流れてしかも変わらざる





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