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STORY
01.春の嵐 02.島の子 03.あたらしい夏 04.黒潮の便り 05.明日定食 06.おじいの海 07.元気そば 08.満天の星 09.天使の休日 10.待っている人 11.涙の浜辺 12.本日営業日和 13.いのちのうた 14.店主の器 15.名もなき花で 16.笑顔農園 17.夢の一滴 18.見えない力 19.夏はお熱く 20.恋する珊瑚礁 21.島の魔法 22.ウミガメ物語 23.五風十雨 24.心の花 終 章 全話一括表示 |
![]() 第24話 心の花
朝の海辺でひとりたたずむマリー。
心に花を思い描いてみるが、ククルヌパナは何もこたえてくれない。
マリーは行き場のない混乱の中にいた。夏祭りは大成功に終った。会場に出した熱風食堂の出店も大繁盛。 臨時店員として駆り出されたハツミや天使も大忙し。 我を忘れて働けることは、マリーにとって好都合だった。 予告もなく島にやってきた母は、祭りの会場には姿をあらわさなかった。 港から島はずれのペンションに投宿したはずだが、 母の方からは何の連絡もきていない。 オッチャンも何も言わない。島の人達はあえてこの話題には触れず、 息をひそめてことのなりゆきを見守っているようだった。 心配したハツミは、ことあるごとに冗談を言ってマリーを笑わせようとしたが、 マリーはうまく反応することができず、打ち上げの席でついにハツミとケンカしてしまう。 そんな中、天使が島を去った。 元アイドル・高山美樹は、偶然この島にやってきて、かけがえのない夏を過ごした。 当初の憂いはすっかり消え、愛嬌のある笑顔だけが心の中にある。 男衆が次々と港に飛び込む横で、マリーはしずかに手を振った。 別れ際、天使はマリーに耳打ちし、実は自分には子供がいると打ち明けた。 アイドルという立場ゆえ手ばなしてしまったその子を、今から取り戻しにゆくのだと、笑顔で言った。 それは、意を決した独白のようにも、マリーを励ますための不器用なお芝居のようにも思えた。 ひるどきを終えた熱風食堂に、とうとう母がたずねてきた。 オッチャンは無言で席をはずすが、動揺したマリーは、 何か言おうとする母から逃げ出してしまう。 残された母に、オッチャンは一杯のそばをさしだす。 晴れた空の下、普段はにぎやかな食堂の席に、波の音だけが響いた。 泣きはらした目で西の浜にたどりついたマリーは、待ち受けた徳三おじいにつかまる。 おじいは思い出したように、マリーの母は実はオッチャンの初恋のひとだったと告げる。 そして「人も風もめぐっているさ」と、まぶしげに空をあおぐ。 志を抱いて島を飛び出したマリーの母は、都会で愛する人の子を生んでいったんは島に戻るが、 夢をあきらめきれず再び島を出る。それから連絡を絶っていたが、 どうやら親戚のクンちゃんが半年がかりで居場所をつきとめたようだ。 おじいが海になってからのことを知った母は、マリーをひきとることを決心し、 十年ぶりに島に来たという。 「よほど勇気がいったと思うよ」という徳三おじいに、 マリーはどうしたらいいかたずねるが、徳三おじいはいつもの聞こえないふりで、 「風がいいさ、マリー」と笑った。 その夜、酔っ払って帰ってきたオッチャンは、マリーの手を握り、 「人がいるべき場所は、待っている人がいる場所だ」 といつかの言葉を繰り返し、そのまま寝てしまう。 もしかしたらこの人は、いつかこの日が来ることを知っていて、 わざわざ島に帰ってきたのではあるまいか。そんな突飛な仮説が浮かんだ。 マリーはいつものようにオッチャンに布団をかけてあげ、 自分のいるべき所はやはりこの島だと思う。 一方で、ここまで来てくれた母の気持ちに応えたいとも思う。 自分らしくあるにはどうしたらいいのか、マリーはまだこたえがみつかっていない。 翌朝、東京へ帰ることにした母は、再びマリーをたずねてきた。 名もない花が咲く庭で親子は初めて対峙するが、 ほぐされてゆく心に戸惑うマリーはどうしていいかわからず、またも逃げ出してしまう。 ハツミ農園に逃げ込んだマリーは、うずくまって泣いた。 時間を気にしてマリーをさがしまわるオッチャンらの声がきこえたが、 出てゆく勇気はなかった。おそらくこのまま母を乗せた船は出てしまうことになるだろう。 そこへいきなり軽トラックがつっこんできた。ハツミ号だ。 「がはは、このあたしから逃げられると思うなよ」 腕組みをして立つ雄姿、ハツミだった。 「あたしはおまえみたいなガキが、いっちばん嫌いなんだ」 そう言ってマリーの尻をぴしゃりと叩き、有無をいわさず軽トラの荷台に押し込める。 「たまには自分のためにがんばってみろ」 ハツミという人は、ときにとんでもない馬鹿力を発揮する。 やはり頼れる相棒だった。 「いいかい、飛ばすからしっかりつかまってな」 「よし、いけー」 マリーの掛け声とともに、ハツミ号は港へ向けて加速した。 見慣れた牧場の景色が、矢のように流れる。 荷台にさっそうと立つマリーの姿に、牧場から投げられる声援。 猛烈な向かい風に、すぐに涙はふっとんだ。 マリーを乗せたハツミ号が港の坂道にすべりこむと、あたりはどよめいた。 オッチャンが指さす先に、出航したばかりの船が見える。まだ間に合う。 「よーし、マリー、おまえの気持ちを見せてやれ」 ハツミの言葉にはじかれたように荷台から飛び降りたマリーは、 しぜんと心に花を思い浮かべていた。 言葉にならない思いは、ようやく開放されたかのように、海上に虹を描く。 港からどっと歓声があがった。 思い切り両手をひろげても届かないくらい、大きな大きな虹。 それは、今までなかったククルヌパナの新たな力だ。 「マリー」 甲板から母は初めて名を呼んだ。何度も呼んで、手をふった。 「また来てねー」 精一杯叫ぶと、マリーは思いきり手をふった。 駆け寄ったオッチャンに肩車され、港は踊る。 飛んだり跳ねたりするハツミの横で、マリーはいつまでも手をふっていた。 ひろい世界のどこにある あなたの島はどこにある ハートのかたちだハート島 心の花を咲かせましょう |
ハート島人物録
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